令和2年9月1日 。
菜々は身体を脱ぎ去り、空へ昇っていった。
あっけない1日だったが、恐ろしい程に自分が未熟なことを思い知らされる1日でもあった…
午前6時。
朝、いつもより遅い時刻に起床すると、ゴンチがすでに六実のゴハンや散歩などを終わらせていた。
ほとんど、眠れなかったようだ…
午前11時。
この日、ゴンチのパグ友達「ニャンコスさん」が、広島からスクランブルで菜々の葬儀に参加することになったので、新幹線の新富士駅まで迎えに行き、自宅で菜々との最後のお話をしてもらった。
午後2時30分。
菜々を車に乗せて、葬儀場へ向かった。
ゴンチが、静かに菜々を運ぶ
これまで何百回…この車で一緒にお出掛けしただろうか…
心に浮かんでくる、ひとつひとつの思い出が深く胸に突き刺さる。
無言で横たわる菜々…
生きているうちなら、どんな姿でも形(写真)として残したいが、そうでなくなった姿は残したくない…という、ゴンチの強い希望があった。
異議など、あろうはずはない。
午後3時。
葬儀場に到着した。
先代のパグ「ゴン」もここで空へ昇っていったという…
小さな葬儀台があった…
この場を見たとき、涙が止まらなくなった…
とても小規模な葬儀場なので、当初はゴンチとぷあくん、ニャンコスさんの3人で菜々を見送る予定だったが、急遽多くのパグ友達が駆けつけてくれた。
お友達のパグズも…
アルミちゃんも来てくれた
三密が発生してしまった💦
思いもかけず大勢の仲間に見送られて、菜々は空へ昇って行くことになった。
午後3時30分。
葬儀が終わり、身体がなくなる時が来た。
ゴンチがそばにいないと全然ダメな菜々が、たったひとりで…炎に包まれる場所に入れられ、鉄の重い扉に閉ざされた。
ギギギィ…と非情な金属音が響き、菜々とは完全に隔てられた。
何度も「待ってくれ!」と叫びそうになった…
「いま、点火しました」…係員が、そう告げた。
わかり切ったことなのに…意味がわからなくなって、まるで身体がなくなったかのように、立ち尽くした。
永遠の闇に閉じ込められたかのように、時が止まった。
外に出て、空を見上げた。
真夏の熱い空が、冷徹に広がっていた…
約1時間後…菜々の骨が出てきた。
言葉なんて、出やしなかった。
骨壷に骨を納める作業も、まるで別の映像を見ているように感じて、まったく現実のものではなかった。
午後5時。
菜々は自宅に戻って、静かに…そこにいる。
たくさんの花に囲まれて…
全部、終わった。
そして、この日、痛烈に悟ったことがあった。
この日集まってくれたパグ仲間は、過去に愛犬との別れを経験して乗り越えてきた、先輩愛犬家達である。
その先輩の愛犬が亡くなった時には、ぷあくんも同じように葬儀に参列して、したり顔で悲しみを共有して、その気持ちを汲んでいるつもりになっていた。
なにも、わかっていなかった。
なにも知らずに、愛犬を亡くした仲間の心に寄り添った気分になっていたのだ。
これほどまでに、つらいのだ…
身をえぐられるように、内臓を引き抜かれるように、心をすり潰されるように…
偽善極まりなかった自分に、身悶えた。
深夜、ふと目が覚めて夜空を見上げる。
じんわりとした、白い月が浮かんでいた